【くろにえる語】 通じると思ったのに通じなかった言葉の総称
【逆くろにえる語】 -その逆-

「くろにえる」とは身体をどこかにぶつけたりして内出血を起こし、黒いアザ様の症状を呈する事をいいます。「内出血を起こした」では専門的に過ぎるし「黒くなった」では何やらあたりまえでつまらない。「黒にえる」とは言いえて妙。何とも豊かな表現ではありませんか。

この医学的にも適切で正しい(と思われる)表現が、何と東京では通じなかった事が青木英輔さん(写真家)の証言により明らかになり、関係者に衝撃が走りました。
同様のエピソードは他にもあり、例えば映画館で「ツンでますか?」(混んでますかの意)と訊いても通じなかった事や、野球でノックに失敗し「置いた、置いた」(取りに行かなくていい、放っておけの意)と叫んでも、三鷹少年野球界のみならず新宮少年野球界でも通じなかった事は既に見てきました。

その後、この講座に寄せられた「くろにえる語」をみてみましょう。

【くらげる】 スカートやズボンのすそを調節すること。くり上げること。
 新高(新宮高校)から東京に来た女子大生。友人のスカートの丈がオカシかったので、「くらげなくちゃね」と言うと「クラゲルってなに?」と聞き返され、「くらげるって、くらげるのよ」と抗弁するも通じず。後に仲間内で面白いと評判になり「共通語」になったとか。

【たっとく】 障子や戸を閉めること(たっておく)
戸を「閉つ」と書いて「たつ」と読ませれば意味がわかるでしょうか。そういう意味です。東京で育てた我が娘に「そこ、たっときなさい」と命ずるも、キョトンとして立ち往生する娘を見て、親子の間で「くろにえる状態」になりました。

〈逆くろにえる語〉
【さぶい】 寒いこと
【ふてる】 捨てること。失くすこと。
 熊野全土でこの言葉が使われているかどうかは知りませんが、私がいた熊野川上流部では使っていました。といっても奥の深い熊野のこと、ひと山越えたとなり村ではどうだったかは、以下の理由により知りません。
「さぶっ」と訛って言ったりするのは「恥ずかしい」事と思い新宮でも使わずに、まして「ふてる」なんてのは超々地元の言い回しに違いないと、村を一歩出ると喋ったことはなく、固く固く封印して江戸に出てきたある日のこと。

落語家とも付き合いのある若旦那(のことだから、きっと下町のチャキチャキに違げぇ
ねー)が「さぶい!」と一言。「エッ、サブイて言うんかい?」と思っている間もなく「○○、ふてちゃったの。あ、そう」「あのサー、○○ふてちゃったんだってー」と大きな声で叫ぶではないか。私は「があぁぁぁぁ、なんなーこれは!。逆くろにえるやげー」と思いました。「そうか、江戸前の言葉やったんか」と急に強気になるあたりは、情けないというよりもこの際「素直」と言っておきましょう。

「さぶ」はその後、CMでも使われてお馴染みになりましたが、「ふてる」はまだ眠っ
てますね。今回、学会発表にあたり裏付け取材をしてみると、神田と日本橋生まれの両親を持つ方が「うん、我が家では『捨てる』は『ふてる』、『ふとんを敷く』は『ふとんをひく』」と言ったと、はにかみながら言っていました。

そういえば「ざぶとん、ひいとけ」などと上流部でも言やったですね。モシかして上記の「くろにえる語」も江戸前と関係ありかと思い、訊いてみたところ「いやぁ、それは言わなんだのぉ」とのこと。「そうけぇ、そうけー。いいってことヨ。礼、言うぜ」と言っておきました・・。
江戸・下町の言葉が熊野山中に。深川との材木取引によるものでしょうか。ちなみに西東京方面では反応がありませんでした。下町方言かも。

ま、都で使われていたり、大人数が使ってりゃ「いい」ってもんではなく、小人数でも意思の伝達手段としての機能を果たしていれば、それは立派な言葉ではないかと思ったりするワケです。これはいよいよ、「世界方言宣言」の発布を急がねば・・。

●北浦さんへの返信
 「語尾に『ら』がつく言葉(『行こら』『食べよら』など)が、敬語表現や女性が使う場合は『れ』になるという新宮弁の法則は、紀北ではいかがでしょうか」という質問にお答えいただきまして、どうもおおきに。(うらなりのひょうたん言わんと、これからもどうぞよろしく。)

「それは、存じませぬ」とのお返事。やはりそうでしたか。私も和歌山市内にいる親類から「れ」の発音を聞いた記憶がありませんでした。

しかし、してみると本講座にとっては、県内のどの辺りから変化していくのかという紀州の大問題が残ります。まず足元からみていきたいと思います。

あのー、河野お母さんと言いたいとこですが(ズルッ)、多分お忙しいでしょうから息子のラッコさん。「ラッコさん!、聞きやるかい?。串本方面ではこの問題は一体、どうなったぁるんやろ?。教えてもらえんかいのう。ところでこの前の野球、うしゃおらなんでも勝ったでゴンすよ。ハハハッ」。教せーて。